村上春樹『職業としての小説家』(新潮文庫)あるいは「民主主義の学校」について
2日前に本屋で、雑誌の棚で面陳列されている『世界』7月号の表紙の「狂騒のChatGPT」という特集に目が行った。雑誌を手にし、清算前の本を入れるプラスティック製の緑色の小さな籠にそれを入れ、籠を持って店内を移動した。雑誌のコーナーには、月刊Hanadaと月刊WiLLが平積みで2山ずつ、うずたかく並べられていて、それらの表紙に縦に並んでいる大きな文字のメッセージにいつも違和感を感じながら通り過ぎる。文庫の棚で、背差しになっている『職業としての小説家』も籠に入れた。本屋は、自宅から自転車で15分程度のところにある小規模の複業商業施設の2階にある。最初から目的地と買う物を決めて出かけたわけではない。雨の日は除いて、毎日自転車に40分程度乗ること自体が目的であるので買い物をするときもあるし、しないときもある。
私は、村上春樹の熱心な読者ではない。彼の小説はたぶん1編しか読んだことがないと思う。その小説の名前を思い出すこともできない。しかし、今回、平成28年10月1日発行と奥付に書いてあるものを読み始めた。そのきっかけは、村上春樹・柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう・増補版』(新潮文庫)を11日前に同じ本屋で買って読んでいて、海外の小説や翻訳のことが取りあげられていて面白かったので、そこに紹介されている小説を自分も読んでみようかと思っていたことである。しかし、本屋の文庫の棚には、読んでみようと思ったものがなかったので、しかたなく、村上春樹氏の『職業としての小説家』を棚から抜いてレジに持っていった。
既に、赤鉛筆で文字にかかるように太い線を引いた部分がいくつもある。それをまず書き抜いてみようと思う。
書き下ろしの長編小説を書くには、1年以上(2年、あるいは時によっては3年)書斎にこもり、机に向かって1人でこつこつと原稿を書き続けることになります。朝早く起きて、毎日5時間から6時間、意識を集中して執筆します。 ...... 毎日だいたい1時間は外に出て運動をします。そして翌日の仕事に備えます。(pp. 182-183)
毎日5時間か6時間、机の上のコンピュータ・スクリーンの前に ...... 一人きりで座って、意識を集中し、物語を立ち上げていくためには、並大抵ではない体力が必要です。(p.186)
毎日朝早く目覚めて、コーヒーを温めて大きなマグカップに注ぎ、そのカップを持って机の前に座り、コンピュータを立ち上げます ...... 。そして、「さあ、これから何を書こうか」と考えを巡らせます。そのときは本当に幸福です。ものを書くことを苦痛だと感じたことは一度もありません。(p. 59)
このような文章を読んで、小説家ではない私も、同じような「仕事」のスタイルになってきていることに気づいた。たしかに、村上春樹氏と同じような幸福感を意識することが私にもあるのである。夜にどんな悪夢を見たとしても、朝無事に小さな書斎でパソコンのディスプレイとキーボード、マウスを置いた机の前に座ることができたとき、自分が考えていることをキーボードのキーを押して画面に並べることをしているとき、幸福感あるいは満足感を味わうことができるのである。
ただし、私の場合、binge writingとかいうスタイルのようにも思える。例えば、最近について言えば、先週の水曜日(9日前)に「まちづくり協議会の構成と役員」というタイトルでココログに記事を書き始めてから、ほとんど他のことは何もしないで、2年前に集めた資料を調べたり、インターネット上の情報を集めたりして加筆修正をやっている。村上春樹氏のように、仕事は1日6時間までとか決めておいた方がよいのかもしれない。
「まちづくり協議会の構成と役員」というタイトルで書き始めた私の「作品」は、「『まちづくり協議会』の新役員が選出されたことを『市民センターだより』(6月1日号)で知って考えたこと」というタイトルに変化した。取りあげている団体の関係者からの返答はまだない。2年前にも同じようなことを文書に書いて渡したのだが、無視された形になっていた——ここでは触れないが「自治連合会会費及び社会福祉協議会会費一部返納」は実施された。今回は、「市民センターだより」を読んだことがきっかけで、2年前のテーマを思い出し、復活させた。関係資料は、Evernoteの中に詰まっていた。最新の情報をGoogleで検索することはやったが、人間のように堂々と嘘をつくことがあるChatGPTに頼ったところはない(注)。
色々なきっかけでやることや考えることが変わっていくのだということを実感する。町内会に組と班とがある。制度的にも日常生活においても、およそ5世帯が所属する班は、「緊急連絡網」で確認することができるが、ほとんど意味をなしていない。役職は、ローテーション表に従って、会長と会計を組単位で引き受けるルールである。2021年度は、私たちの組に会長と会計とが当たる年度であった。組長、会計、会長のどれかを引き受けることになっていて、私が会計を引き受けることになった。
もし、会計をやることにならなければ、そして、収支の赤字がずっと続いてきていることが問題視されていなければ——4月に受け取った町内会名義の預金通帳には約184万円の残高があった——、町内会が毎年度拠出する「自治連合会会費及び社会福祉協議会会費」(約11万円)のことなどに関心を持つことがなかったはずである。
また、「校区3団体」の運営され方の不透明さに気づくこともできなかったはずである。例えば、この「上部」団体の決算報告は、単位町内会で配られたりすることはなく、回覧版で回されることもない。そのような団体では、「住民主体」とか「住民から構成されている」とかいうキャッチフレーズがしばしば使われるのであるが。 数日前に文章の中で「民主主義の学校」という歯が浮きかねない言葉を強引に使うチャンスに巡りあえたのもこの流れの中でである。
2年前の2021年度に町内会の会計の役職を引き受けることになったおかげで、私は、いまこの文章を書いている。文庫本の『職業としての小説家』という本の感想を書こうとして書き始めた文章なのだが、いつの間にか、自分が最近取り組んでいたことを書くことになっている。
[注]
正直に言うと、「非営利組織における役員手当」についてChatGPTに質問してみたことはある。知ったかぶりのChatGPTの、大胆な嘘かもしれない回答は以下の通り。
非営利組織における役員手当は、一般的ではありません。多くの非営利組織では、役員が無給またはボランティアとして活動しています。これは、非営利組織が社会的な目的の達成や公共の利益の追求を優先するためです。(ChatGPTの回答)
この考え方を受け入れるならば、市政連絡事務委託料や県広報紙配付委託料は、会計処理の透明化という観点からは、予算の収入として計上すればいいことで、支出項目に「役員手当」の明示が必要だという問題ではない、ということになる。
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