「関心事としての社会問題」という主観主義的な発想
6月14日のことだが、ある空港の付属施設にあった本屋でジョエル・ベスト著(赤川学 監訳)『社会問題:なぜ、どのように生じ、なくなるのか?』(筑摩選書、2020年11月)を購入した。この本は、監訳者が「構築主義アプローチの教科書」と巻末の解説で説明している。
構築主義アプローチとは、社会問題(social problems)を「客観的に定義される特徴を共有する状態」ではなく、「主観的な問題関心が生起する過程」として定義し、典型的な経路にしたがう「自然史(natural history)」であるとみなしている。
正直に言うと、小説の場合のように最初から最後まで順に読んでいく気にはなれない。拾い読みをして参考になることを見つけるつもりで読み始めた。最初の章に「基本的な社会問題過程の自然史モデル」という図が出てくる。これには、「クレイム申し立て」「メディア報道」「大衆の反応」「政策形成」「社会問題ワーク」「政策の影響」という経路が説明されている。
「クレイム申し立て」と「社会問題ワーク」以外は、扱われているであろう内容についての推測ができる。目次を見ると、第2章から第5章までと第10章のタイトルにクレイムという言葉が入っている。クレイムあるいはクレイム申し立てということが、構築主義的アプローチの重要なポイントであることがわかる。
クレイムのレトリックを分析することが取りあげられている(第2章)。「説得的な議論は前提(Grounds)、論拠(Warrants)、結論(Conclusios)という3つの基礎的な要素を持ったレトリックの構造を共有している」という観点から「社会問題のクレイム」は、それに沿って「問題の性質に関する陳述」、「行動を正当化するもの」、「どのような行動がなされるべきかの説明」から分析されるべきと主張されている。
「クレイムは自分の主張に真っ向から対立する対抗クレイム(counterclaims)を誘発する。」(71ページ)
「クレイムは、多くの人が理解できる言葉、概念、イメージ、感情的反応などの蓄積という社会の文化的資源を利用する」(75ページ)
「ブログやウェブサイト、電子掲示板など、インターネットに基礎を置いた新形式のメディアが現れている。これまでのところ、これらの変化はクレイムが報道されることを容易にした。しかしそれによって、より広く一般的な受け手にクレイムへの注目を集めることが容易になったわけではない。なぜなら異なるメディアがターゲットとする受け手は、小規模かつ同質的になる傾向があるためである。」(158‐159ページ)
「メディア報道が世論に影響を与えられるということが、いくつかの証拠により示されている。しかし、重要なのは、メディアの影響力を過大評価しないことである。人は、メディアのメッセージが何であろうとそのまま鵜呑みするような受動的な存在ではない。おそらくメディアは、個別のメッセージの伝達よりも議題設定(agenda setting)において優れている。すなわち、あるトピックに対する人びとの考えそのものではなく、その人たちがそもそも何をトピックスとして考えるかに影響力を発揮しやすい。」(185ー186ページ)
「(社会問題の)所有権は、問題の見通しそのものにも、その問題を推進する活動家にも影響を与える。しかし誰かが所有権を持たなければ、社会問題過程が前進することは難しい。大衆の関心は、他の話題が盛り上がると、簡単に移り変わってしまう。所有権者は問題に着目し続け、人びとにその重要性を思い起こさせ、その話題が新鮮かつ興味深いものになるように、自分たちのクレイムを改定し続けなければならない。」(109ページ)
「私たちは聴衆に語りかけるクレイム申し立て者を想定しがちであるが、受け手が受動的であると考えてはいけない。受け手もクレイムに反応するし、その反応に応じるかたちで、クレイム申し立て者は問題構築の仕方を変える傾向がある」(334‐335ページ)
「Society」カテゴリの記事
- 市有地の開発行為で埋蔵文化財の保護について文化財保護審議会への諮問がなされていない場合に、住民監査請求をおこなうことができますか。(2024.10.11)
- 複合公共施設建設事業と初代門司港駅遺構の保存(2024.10.11)
- 政治・文化・経済の3次元(2024.07.23)
- 「門司港地域複合公共施設整備事業」に関するある表とグラフ(2024.06.30)
- 「関心事としての社会問題」という主観主義的な発想(2024.06.19)