岩井克人『貨幣論』(ちくま学芸文庫、1998年)
"貨幣共同体の今ここにおける存在は、その貨幣共同体が未来永劫にわたって存在しつづけるという期待によって支えられていることになる。まさにすべてが期待の連鎖を通して無限の未来から宙づりされているのである。"
"貨幣という存在の前には、価値なるものに人間の労働という実体的な根拠をあたえようとしてきた古典派経済学やマルクス経済学も、価値なるものに人間の欲望という主体的な根拠をあたえようとしてきた新古典派経済学も無力である。だが、貨幣が共同体的存在であるからといって、古代的な共同体を対象とする経済人類学のように、それを共同体の内部における呪術的、宗教的、装飾的、威信的、政治的、刑罰的な価値の象徴であると宣言して満足していることもできない。"
"貨幣で商品を買うということは、じぶんの欲しいモノをいま手にもっている人間が貨幣共同体にとっての「異邦人」ではなかったということを、そのたびごとに実証する行為にほかならない。
"
"ひとびとがいっせいに貨幣から遁走していくハイパー・インフレーションの行き末では、貨幣を貨幣として受けとってくれるひとはだれもいなくなり、そこから遁走すべきはずの貨幣共同体そのものが消滅してしまうのである。"
"終生変わらぬ恐慌待望論者であったマルクス …… (しかし)恐慌という現象が資本主義社会にとってもっとも本質的な危機(Krise)であると結論づけることはできない。事実はその逆なのである。"
"すべての商品がたんなるモノであるという理由から無価値であると見下され、貨幣だけが唯一の富であるとして叫びもとめられている恐慌とは、…… 資本主義社会にとっての本質的な危機ではありえない。ひとびとは、たんにモノの実体性よりも貨幣共同体の永続性を欲しているだけなのである。"
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