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August 13, 2025

北九州市コミュニティビジョンについて

町内会・自治会は、市町村内の一定の地区において結成される地域団体であり、構成単位が個人ではなく世帯であること、地域住民の親睦・和合および相扶・連帯を図る共同体的性格と、地域生活上の便益増進を目的とする機能集団的性格を併せ持つなど、特徴的な性質を有している。 一方、まちづくり協議会は、小学校区単位で活動を展開し、行政との連携が密接であり、活動資金の多くが使途を特定された「紐付き」となっているなど、より公的性格の強い組織である。 実際には、町内会・自治会のほか、各校区には自治連合会、まちづくり協議会、社会福祉協議会がそれぞれ独立した組織として編成され、個別の目標のもとに活動している。なお、自治連合会は住民の自治組織ではなく、その名称のとおり、町内会・自治会相互の連絡・調整を担う連合体である。

このように組織的性格が根本的に異なる以上、例えばまちづくり協議会が町内会・自治会(の会員)から直接的に「会費」を徴収するといった構図(注1)は、各組織の設立趣旨、機能、および法的な枠組みに照らして極めて不合理であり、現実的ではない。「コミュニティ」についてのビジョンを市がまとめるというが、それが行政の政策目標なのか、地域社会の理想像の提示なのか、焦点が不明確である。さらに、検討会議での指摘でもあるように、区によって町内会・自治会の組織構造や環境が大きく異なるため、一律の資金関係や運営モデルを適用することには困難が伴う。

北九州市地域コミュニティビジョン検討会議(令和7年4月21日、5月28日、7月16日開催)においては、「稼ぐ自治組織」への転換が提唱され、地域コミュニティ活動の持続可能性確保のために経済的側面を導入する議論がなされている。しかし、この議論が、上述した町内会・自治会やまちづくり協議会などの地域を構成する多様な組織の明確な性質の違いを十分に意識しないまま進行している可能性がある。

「稼ぐ自治組織」への転換には、以下の複数の深刻な課題とリスクが内在する。

  • 事業経営の専門性不足: 多くの地域組織は、事業経営に必要なノウハウ、労務管理、リスク管理能力を持ち合わせていない。多田構成員が提唱する「地元の農家から米を買い上げ、住民に安く販売し利益を得る」活動も、事業として赤字や失敗が発生した場合、それが地域の信頼失墜に直結する危険性を孕む。
  • 資金の透明性と不信: 日高構成員が訴える「紐付きではない自由な資金」の必要性は理解できるものの、その一方で資金使途の不透明化や責任の不明確化を招くリスクがある。これは、政治的・個人的な利害関係に組織が巻き込まれ、結果として住民間の不信感や分断を生む可能性を秘めている。
  • コミュニティの本質的価値との衝突: コミュニティ活動の根底には、互助や信頼醸成といった「非金銭的価値」が存在する。収益化を強く志向することで、これらの非金銭的価値が損なわれたり、コミュニティ本来の温かい関係性がビジネスライクなものに変質してしまったりする懸念がある。
  • 公私の境界の曖昧化: 勢一構成員が示唆した「地域で起業してサービスを提供する」ことや「公務員の副業」という発想は新しいが、利益相反や倫理的問題が発生しないよう、厳格な管理ルール整備が不可欠である。
  • 小規模経済循環の脆弱性: 西村構成員のLINEポイント活用や斉藤構成員の町内会アプリ開発・広告料運営など、具体的な収益化のアイデアも示されている。しかし、「地域で小さく経済を回す」という発想は、規模が小さいほど収益性や持続性が脆弱になりやすいという現実がある。特定の人材や事業への依存度が高まり、担い手が抜けた際に継続困難になるリスクも無視できない。

以上のことから、北九州市が掲げる「多様な主体による全世代参加型地域コミュニティ」の実現のためには、安易に「稼ぐ」という目標を掲げるだけでなく、各組織の特性と潜在的なリスク、現実的な課題をより深く、そして徹底的に掘り下げて検討することが不可欠である。単なる収益化に走るのではなく、地域特性や多様なニーズを考慮しながら、真に持続可能で、地域住民の「安心と幸福感」(注2)なるものに繋がるコミュニティのあり方を模索していくべきなのではないだろうか。

【注】
1. これは検討会議で提唱されていることではない。「志井校区まちづくり協議会」の令和5年度決算と令和6年度予算案には、「収入」の項目として 「町内会費」というものがある。まちづくり協議会と町内会とは別のものであるから、 何の説明もなくこのように表記されているのはおかしい。書くとしたら、 前者を構成する団体の1つである町内会・自治会からの「拠出金」とすべきであろう。➔令和5年度決算と令和6年度予算案の相違(志井校区まちづくり協議会)
2. これは、検討会議で出てきたとされる表現。

【資料】
持続可能な地域コミュニティを目指して!「北九州市地域コミュニティビジョン」の策定について

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(NotebookLMを利用した。)

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