e. 統計

December 24, 2025

COR(候補者超過達成比率)の分布(参院選2025年福岡のデータ)

The COR( Candidate Overperformance Ratio) is defined as a ratio that compares the candidate's individual vote-gathering power (V_Cand) to the basic proportional representation votes of their affiliated political party (V_Party,Base)

ここでおこなう分析は、公開された統計データに基づき、日本の選挙・社会構造を数理的に記述しようとする試みです。ここで用いるCOR(Candidate Overperformance Ratio:候補者超過達成比率)は、以下の数式で定義されます。この指標は、候補者がその地域で「政党票の何倍の票を集めたか」という集票の強度(増幅率)を測定する量的な指標です。 分子の部分は、候補者個人の得票数(選挙区)、分母の部分は、所属政党の比例代表における得票数(基礎票)となっています。 比例代表の得票数は、候補者が得票した同一市町村における所属政党の比例代表票を用いています。 1.0を超えれば、政党の基礎票以上の集票力を発揮していることを示します。なお、比例票が極端に少ない市町村では COR が大きくなりやすく、この場合は「個人の動員力」というより「政党基礎票の希薄さ」を反映している可能性があります。

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本ブログの分析は、公開された統計データに基づき、日本の社会構造を数理的に記述しようとする試みです。本ブログにおける「COR」の定義について、改めて明記します。
COR = 候補者の得票数(選挙区)÷ 所属政党の得票数(比例代表)
これは、選挙における「個人票」と「政党票」の比率を算術的に算出した数値です。この比率は、地域の政治的風土や候補者の活動量、選挙区の特性を記述する統計的な指標であり、候補者や住民について市民としての優劣を評価するものではありません

1. CORの箱ひげ図

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2. 政党及び候補者の得票数の対応分析

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3. 対応分析との併用による質的分析

次の2つのグラフは、地域・政党・候補者に対する対応分析(上記のグラフ参照)の第2軸座標に関するものです。CORの値と第2軸座標との関係、第2軸座標と選挙での得票率との関係をとりあげています。対応分析では政党と候補者の距離が可視化されますが、CORの値と第2軸座標の値は、それぞれの指標が測定している「政治的データの次元」が定義上異なっています。計算の対象が「絶対的な得票倍率」か「相対的な地域分布」かという点で、本質的に異なる性質の指標です。

COR(Candidate Overperformance Ratio)は、候補者個人の得票(VCand​)を所属政党の比例代表の基礎票(VParty,Base​)で割った「量的」な比率です。これは、その地域で「政党の何倍の票を集めたか」という集票の強度(増幅率)を測定します。これに対して、 対応分析における距離の定義とは、複数の市町村における「得票の分布パターン(プロファイル)」の類似性を測定します。プロット上で政党と候補者の距離が近い(直結型)ということは、CORが「高いか低いか」に関わらず、「政党が票を取っている場所で、候補者も同様の割合で票を取っている」分布構造の同一性(地域的な支持基盤の重なり)を意味します。

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上記グラフの第2軸座標値は、ここでは、以下のように候補者データのみを取りだし標準化(Zスコア化)をしています。

# 対応分析 (CA) の実行
res.ca <- CA(df_matrix, graph = FALSE)

# 第2軸座標の抽出と標準化 (scale関数の適用)
# 17列目から29列目が候補者データ
w <- res.ca$col$coord[17:29, 2]
w_scaled <- as.data.frame(scale(w))
colnames(w_scaled) <- "Axis2_Zscore"
(以下省略)
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次のグラフは、全体として、政党と候補者のCA空間上の距離(ここでは第1軸と第2軸の2次元上で計算したが、全次元とするべきかは[別稿]で検討した。)が遠くなるほど、県全体での集票倍率(COR)が低下するという緩やかな傾向(負の相関)があることを示しています。 これは、「所属政党が本来持っている地域的な支持基盤(地盤)」から離れた戦い方を選択すると、多くの場合、効率的な集票が難しくなるという実態を裏付けています( これは因果関係を示すものではなく、あくまで構造的な対応関係を示す経験的傾向です)。 CORと対応分析を併用することで、 当落では捉えられない「選挙構造の質的差異」が初めて可視化されます。

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4. メモ:政党得票率とCORの関係

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比例代表(PR)における政党得票数が極端に少ない市町村では、CORは過大に算出されやすい。このような場合、高いCORが候補者の真の動員力を反映しているのか、それとも単に政党の基礎票が希薄であることを示しているにすぎないのかを、慎重に区別する必要がある。

したがって、CORは単独で解釈されるべき指標ではなく、対応分析(CA)における政党と候補者の位置関係と併せて評価されて初めて、分析上の意味が確定する。

以下では、数値自体はそのまま受け取りつつ、次のような解釈が可能であることを示す。

4.1 分析上の操作的ルール

対応分析(CA)のプロットにおいて、候補者と所属政党との距離が近い場合、それは得票分布の構造的類似性、すなわち「政党が票を獲得している地域で、候補者も同様に票を獲得している」ことを意味する。

この状態で、特定の市町村におけるCORのみが高い場合、それは候補者個人の力というよりも、その地域における政党基礎票が極端に少ないことに起因する統計的なブレである可能性が高い。

これに対して、候補者がCA空間上で所属政党から遠くに位置している場合、その候補者が政党本来の支持基盤とは異なる層から票を引き出していることが示唆される。

このような候補者が高いCORを記録している場合、その高い集票効率は、政党の看板に依存しない候補者個人の動員力によるものであると判断する強力な根拠となる。

この意味で、CAにおける距離は、CORの実質的解釈を条件づける文脈的指標として機能する。

4.2 逆の場合の解釈

まず、対応分析において候補者と政党との距離が大きい場合、それは候補者が政党の伝統的な支持基盤から離れた戦い方を選択していることを意味する。

このような状況での低いCORは、候補者の選挙戦略と政党が持つ既存の地域的支持基盤とのミスマッチを反映した、構造的な集票効率の低下として説明される。

一方で、政党との距離が小さく、支持基盤が重なり、得票分布の構造が類似しているにもかかわらずCORが極端に低い場合、政党の地盤内にいながら本来取り込むべき基礎票を十分に吸収できていない可能性、あるいは候補者個人の訴求力が基礎票を増幅させるに至っていない可能性が示唆される。

ここでは、説明の焦点は構造条件から、候補者レベルのパフォーマンスや選挙活動の有効性といった要因へと移行する。

さらに、純粋に数値的な観点から見ると、ある地域において政党の基礎票が極めて強固である場合(すなわち分母が非常に大きい場合)、候補者の絶対的な得票数が相応に多くても、CORは相対的に低く算出されることがある。

この現象は、候補者の評価を意味するものではなく、比率指標そのものが持つ数学的性質として理解されるべきである。

 


★データで探る福岡の選挙動向:メモの整理(2025年9月10日以降のココログ及びnoteでの記事のリスト)

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December 22, 2025

2種類のグラフ:参院選2025年福岡の市町村別の政党得票数(比例代表)及び候補者得票数(選挙区)の対応分析

Ca_result1227a_20251227085001 Ca_result_20260103184001

最初のものは計算にGreenacareのca()パッケージを、次はFactoMineRのCA()パッケージを利用している。左右は同じだが、上下が反転している。計算結果のわずかな差によるものであり、政党等が上に表示されるか下に表示されるかは分析上の本質的な問題ではない。

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対応分析(参院選2025年福岡)の分析資料及びメモ(その2)

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December 21, 2025

政党と候補者の市町村別得票数(参院選2025年福岡)

どの候補が当選したかということではなく、基本的に、市町村別の政党及び候補者の得票数の特徴について焦点を合わせてきたが、候補者の当落には「大票田」の動向が大きく影響するということは事実なのであろう。

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このブログ記事群は、統計言語Rを用いた対応分析(CA)を通じて、2025年参議院選挙などにおける福岡県の投票行動を緻密に視覚化したデータ解析記録です。主な構造として、単純な地域比較に留まらず、政党と候補者の距離を測定することで、組織票に依存する「直結型」や党派を超える「越境型」といった独自の候補者類型化を試みています。全体を通じて、福岡の選挙構造を規定する根源的な対立軸が「都市 対 非都市」にあることを実証しつつ、既存の政治地図を塗り替える参政党などの「フリンジ政党」の台頭をデータから示唆しています。最終的には、統計的な手法を駆使して、マクロ経済の停滞や格差が有権者の心理に与える「静かな地殻変動」を浮き彫りにすることを目的としています。

そうだった。そういうことです、Geminiさん。 


Fukuoka Election Data Reveals Hidden Political Fault Lines

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December 20, 2025

地域や政党のクラスタリング(参院選2025年福岡のデータの対応分析に基づく)

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Screenshot-20251223-at-183224 Screenshot-20251220-at-111217 Screenshot-20251223-at-183109_20251223184701 Screenshot-20251220-at-111231

国民民主党の位置が興味深い。投票数のパターンからは、対応分析のグラフにおいて第1軸の原点よりも右に位置し、「フリンジ政党」の仲間になっている。それらの政党は、政権獲得はせずとも、僅差の選挙で「キングメーカー」になったり、その主張が主流派に取り入れられたりすることで政治に影響を与える可能性がある。


★データで探る福岡の選挙動向:メモの整理

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December 18, 2025

CAのあとにクラスタリングをするというオプションがRコマンダーにあった。

(以下のような記事を書いた後、Rコマンダーが使えなくなってしまった。原因不明。)

最初の2つのグラフは、Rコマンダーが作成したもの。CAのオプションにマウスでクリックするだけだった。これは、FactoMineRのプラグインをRコマンダーに導入していると可能になる。

Screenshot-20251218-at-181125 Screenshot-20251218-at-181137 Ca_result_20251212185101_20251218182201 Screenshot-20251218-at-181823

別の実行例:hclust(dist_matrix, method = "ward.D2")

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December 17, 2025

久しぶりにRコマンダーをRStudioから起動してみた。

Screenshot-20251217-at-174447
Screenshot-20251217-at-174415 Screenshot-20251217-at-173845

日本語の扱いについてGeminiに確認してみた。

Screenshot-20251217-at-184025

衆院選福岡11区のデータをRコマンダーで読み込んでみた。RStudioを使った場合と同じ結果が出てきた。しかし、日本語の政党名が文字化けしてしまうので問題がある。

Screenshot-20251217-at-204538

Rコマンダーが作成した以下のスクリプトをRStudioで実行し、日本語の政党名を略号(アルファベット)に置き換えることによって対処した。


Replace with Main Title
=======================
### Your Name
### `r as.character(Sys.Date())`

```{r}
# include this code chunk as-is to set options
knitr::opts_chunk$set(comment=NA, prompt=TRUE, out.width=750, fig.height=8, fig.width=8)
library(Rcmdr)
library(car)
library(RcmdrMisc)
library(FactoMineR) # これを追加した
```

```{r}
# include this code chunk as-is to enable 3D graphs
# library(rgl)
# knitr::knit_hooks$set(webgl = hook_webgl)
# ここは実行されないようにした
```

```{r}
Dataset <- read.table("/Users/moteki/Desktop/data11ku_PC.csv", 
header=TRUE, stringsAsFactors=TRUE, sep=",", na.strings="NA", dec=".", 
  strip.white=TRUE)
```

```{r}
Dataset.CA<-Dataset[c("1", "2", "3", "4", "5", "6", "7", "8", "9", "10", "11", 
"12", "13", "14", "15") ,c("JCP", "RS", 
  "CDP", "DPP", "JIP", "SDP", "LDP", "NKP", "SAN", "Shiki", "Takeda", "Murakami")]
```

```{r}
res<-CA(Dataset.CA, ncp=5, row.sup=NULL, col.sup=NULL, graph = FALSE)
```

```{r}
print(plot.CA(res, axes=c(1, 2), col.row="red", col.col="blue", 
label=c("col", "col.sup", "row", "row.sup")))
```

```{r}
summary(res, nb.dec = 3, nbelements=10, nbind = 10, ncp = 3, file="")
```

```{r}
remove(Dataset.CA)
```

結果の要約とグラフ

Screenshot-20251217-at-211417 Screenshot-20251217-at-211430 Screenshot-20251217-at-211338_20251217211701

スクリプトを書き換えて地域の略号で表示されるようにした(行名の書き換え)。

Screenshot-20251217-at-213836
```{r}
municipality <- Dataset[,1]
rownames(Dataset) <- municipality
```
```{r}
Dataset.CA<-Dataset[c(1:15) ,c("JCP", "RS", 
  "CDP", "DPP", "JIP", "SDP", "LDP", "NKP", "SAN", "Shiki", "Takeda", "Murakami")]
```

次のものは、RStudioで作成した(Geminiが示したスクリプトを実行)。作成日が表示されるようになっている。

Screenshot-20251217-at-225622

```{r}
library(ggplot2)

today <- as.character(Sys.Date())

# 資料の数値(寄与率)に基づいたサンプルデータ
# Dim 1: 64.92%, Dim 2: 18.14%
dims <- data.frame(
  Dimension = c("Dim 1", "Dim 2", "Dim 3", "Dim 4"),
  Variance = c(64.925, 18.138, 8.199, 4.886)
)

ggplot(dims, aes(x = Dimension, y = Variance)) +
  geom_bar(stat = "identity", fill = "steelblue") +
  geom_text(aes(label = paste0(Variance, "%")), vjust = -0.5) +
  labs(title = "対応分析における各次元の寄与率",
          subtitle = paste("作成日:", today),
       x = "次元",
       y = "説明される分散の割合 (%)") +
  theme_minimal(base_family="HiraKakuProN-W3")
```


衆院選2024年福岡11区の政党と候補者の対応分析

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December 16, 2025

[資料]参院選2025年データ(政党得票数と候補者得票数、政党の得票数と相対得票率)

ファイル名に含まれる「PC」はパーソナル・コンピュータではなく、Pは政党(party)を、Cは候補者(Candidate)を意味する。

(1) data_PC.csv 
data_PC[,1:4]

Screenshot-20251216-at-191228
colnames(data_PC)

Screenshot-20251216-at-191338


(2) data_parties.csv
data_parties[,1:4]

Screenshot-20251216-at-191601
colnames(data_parties)

Screenshot-20251216-at-191713


★データで探る福岡の選挙動向:メモの整理

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December 14, 2025

衆院選2024年福岡11区の政党と候補者の対応分析

市町村別の政党得票数(比例代表)と市町村別の候補者得票数(選挙区)とを結合して対応分析をおこなった。 市町村別の政党得票数と候補者得票数データから、政党、候補者、地域の三者間の関係性を可視化することを目的としている。 グラフ上で政党とその候補者がどの程度離れているか、どの地域がどの政党や候補者に引っ張られているか(正確には、「その地域において、その候補者の得票率が全体の平均と比べて相対的に高いか」)などに注目することができる。

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村上候補のポイントに苅田町や行橋市が引きつけられ、さらに、出口調査で報道されていたことと一致することだが、日本維新の会支持者だけでなく社会民主党や参政党、国民民主党の支持者も引きつけられている様子が見てとれる。

Screenshot-20251216-at-163627

武田候補の周囲を添田町、香春町、赤村が囲んでいる。しかし、興味深いことに、自民党の位置から遠く離れた位置にある。自民党は別の象限に位置している。

Screenshot-20251216-at-163655

社会民主党の志岐候補に田川市は引き寄せられているが、志岐氏と社会民主党の距離よりも志岐氏とれいわ新選組との距離の方がグラフ上で近い位置に描かれている。




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対応分析のグラフから読み取れる政党とそのその政党の候補者の位置の隔たりは、上記のCOR(候補者超過達成比率)の値と関連しているはずである(MurakamiとJIP、TakedaとLDP、ShikiとSDP)。→ 候補者がどれだけ政党の基盤票を超えて幅広い有権者の票を包含できたか(2024年衆院選福岡11区)

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[分析に用いたデータと略号について]

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重要キーワード解説:福岡11区の事例から

はじめに:選挙の「なぜ?」を解き明かす道具

衆議院選挙福岡11区の分析を例として、選挙結果の裏側にある「なぜ?」を深く理解するための重要なキーワードを解説します。一見すると単なる数字の羅列に見える選挙データも、統計分析という道具を使うことで、有権者の動向や候補者と政党の関係性をいきいきと可視化することができます。この解説を通じて、データから選挙を読み解く面白さを体験していきましょう。

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1. 選挙の基本:2つの投票方法

衆議院選挙では、有権者は基本的に2つの票を投じます。これが「選挙区」と「比例代表」です。それぞれの仕組みを理解することが、分析の第一歩となります。

1.1. 選挙区制度:地域を代表する「一人」を選ぶ

選挙区制度とは、全国を細かく分けた選挙区ごとに、一人の代表者を選ぶ方法です。分析資料にある「市町村別の候補者得票数(選挙区)」というデータがこれにあたります。有権者は、自分の住む地域の代表になってほしい「候補者」個人の名前を書いて投票します。

1.2. 比例代表制度:支持する「政党」を選ぶ

比例代表制度は、有権者が支持する「政党」の名前を書いて投票する方法です。分析資料の「市町村別の政党得票数(比例代表)」というデータがこれを示します。全国(またはブロックごと)で各政党が集めた票の数に応じて、議席が配分されます。

1.3. 2つの制度の比較

この2つの制度の最も重要な違いは、投票の対象です。

投票の対象             説明選挙区                    候補者個人比例代表                 政党
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ここまでで選挙の基本的な仕組みをとりあげました。次に、これらの投票データがどのように分析され、有権者の隠れた投票行動を明らかにするのかを見ていきましょう。

2. 対応分析:データに隠された「関係性」を可視化する

ここでの選挙分析では、複雑なデータを直感的に理解するために「対応分析」という統計手法が用いられます。

2.1. 対応分析とは何か?

対応分析の目的は、「政党、候補者、地域の三者間の関係性を可視化すること」です。難しい数式を追うのではなく、市町村ごとの選挙区(候補者)と比例代表(政党)の得票データを使い、それぞれの関係性を一枚の「地図」のようにグラフ上に描き出します。このグラフを見ることで、どの要素が互いに「近い」関係にあり、どの要素が「遠い」関係にあるのかを一目で把握できます。

2.2. 対応分析で何がわかるのか?

この分析グラフからは、主に以下の3つのような重要な関係性を読み取ることができます。

政党と候補者の「距離感」 グラフ上での位置関係は、所属政党と候補者の支持基盤の重なり具合を示します。例えば、福岡11区の分析では、武田候補が所属する自民党から「遠く離れた位置にある」ことが示されました。これは、候補者が政党の基本的な支持層とは異なる層から票を得ている可能性を示唆します。

候補者と地域の「引力」 特定の候補者と地域の位置が近い場合、その地域でその候補者が特に強い支持を得ていることを意味します。分析例では、村上候補のポイントに「苅田町や行橋市が引きつけられ」ている様子が描かれており、これらの地域が村上候補の強力な地盤であることがわかります。

候補者と他党支持者の関係 党派を超えた支持の広がりも可視化されます。村上候補は、日本維新の会だけでなく「社会民主党や参政党、国民民主党の支持者も引きつけられている」ことが示されました。また、社会民主党の志岐候補は、自身の所属政党よりも「れいわ新選組との距離の方がグラフ上で近い位置に描かれている」ことが指摘されており、候補者個人の思想や魅力が、所属政党の枠を超えて支持を集めている様子が読み取れます。

このように、グラフ上の「位置」と「距離」を読み解くことで、地盤の強さ、党との一体性、そして無党派層への浸透度といった、候補者ごとの選挙戦の「質」の違いを浮き彫りにすることができるのです。

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このようにグラフ上の「距離」は、候補者と政党、そして有権者の関係性を直感的に示してくれます。では、この「距離」を数値で評価する指標が次に解説するCORです。

3. 候補者超過達成比率(COR):候補者の「個の力」を測る指標

対応分析で視覚的に捉えた関係性を、より具体的に数値で評価するのが「候補者超過達成比率(COR)」です。

CORとは、「候補者がどれだけ政党の基盤票を超えて幅広い有権者の票を包含できたか」を示す指標です。つまり、その候補者が「比例代表」で示される党の基礎支持層に安住せず、自らの魅力でどれだけ多くの「選挙区」票を上乗せできたか、その「個の力」を数値化したものです。

3.2. CORと対応分析の関係

CORの値は、対応分析グラフにおける政党と候補者の距離と強く相関します。グラフ上で所属政党から遠い位置にいる候補者ほど、政党の枠を超えて支持を集めていることを意味し、CORの値も高くなる傾向があります。(ただし、政党と候補者との距離が遠いことは、CORが低いことと結びついていることもありうる。 → 政党と候補者との距離が、高いCOR値と結びついていたのが衆院選2024年福岡県11区の場合である。

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まとめ:キーワードを繋げて選挙を深く読む

本稿で解説した4つのキーワードを繋げることで、選挙結果を立体的に理解できます。

有権者は「選挙区」で候補者個人に、「比例代表」で政党に投票します。

この2種類の投票データを使い「対応分析」を行うと、候補者・政党・地域の関係性が地図のように可視化されます。

そのグラフ上の「政党と候補者の距離」は、候補者個人の集票力を示す「COR」という数値指標と連動しています。

これらのキーワードを使いこなすことで、私たちは選挙結果の裏に隠された有権者の選択の「なぜ」を、データに基づいて解き明かすことができるのです。


★データで探る福岡の選挙動向:メモの整理

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December 13, 2025

対応分析(参院選2025年福岡)の分析資料及びメモ(その2)

福岡県の参院選2025年の結果について、地域、政党、候補者のデータを用いて行った対応分析

対応分析(参院選2025年福岡)の分析資料及びメモ(その1)

1. 分析用データ

市町村別(municipality)の各政党(party)の得票数の表と市町村別の各候補(candidate)の得票数の表を横に結合したものである。行(row)に市町村、列(column)に政党と候補者がきている。2次元データの結合であり、3次元のデータではない。

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Screenshot-20251213-at-193909


2. 作成されたグラフ等

Ca_result01 Ca_result_20260103184301 Screenshot-20260103-at-151019 Screenshot-20260103-at-151140
F20260103
「coord_fixed(ratio = 1)」として設定した場合

 

2.1 当選可能性との関係

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第1軸座標と得票率との関係を見ると、第1軸座標が負である自民党や自民党候補の得票率が最も高いことが確認できる。 非都市部における伝統的政党の集票力が依然として選挙結果を左右する重要な要素であることが示されている。 得票率がそれに続くのが参政党候補と参政党であるが、座標値は負ではなく正である。

第2軸座標でも、自民党、自民党候補、参政党候補が高い得票率を示している。自民党及び自民党候補の座標値は極めて低い。参政党候補の参政党の座標値はゼロの近い。

2.2 第1軸の解釈について

以下は地域と候補者得票数を対応分析した場合のグラフである。

Screenshot20251209at163807_20251215150301

地域番号10:福岡市中央区、地域番号9:福岡市博多区、地域番号11:福岡市南区、地域番号8:福岡市東区、地域番号15:大牟田市、 地域番号20:柳川市、地域番号37:嘉麻市、地域番号21:八女市

軸への寄与度が大きい地域が、正の側では福岡市中央区、福岡市博多区、福岡市南区等であり、負の側では、大牟田市、柳川市、嘉麻市、八女市等であることを読み取ることができる。同じことが、地域の政党支持と候補者支持とをまとめて対応分析した場合の軸の解釈にも通用するとみられるので、同じように「都市度」と解釈することにする。

2.3 第2軸の解釈について

地域と候補者得票数を対応分析した場合には、第2軸を「支持基盤の『質的』差異」と解釈した(以下のグラフを参照)。これが、候補者と政党の両方を同時に位置づける対応分析の場合には、そのことが、両軸軸上で候補者と政党との距離という形で可視化される。

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3. 市町村と政党のクラスタリング

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4. 検討用メモ

1. 【越境型】 党の枠を超えて支持を広げている候補
所属政党の支持層(地盤)とは異なる層からも票を得ている、あるいは「党の平均的な支持層」とは異なる地域で強い候補です。
NOD候補(立憲民主党)

データの特徴: 立憲民主党の候補でありながら、データ上の位置は「自由民主党」に極めて近い(立憲本体よりも自民に近い)。
分析: これはこのデータの中で最も特異な動きです。NOD候補は、立憲民主党の公認でありながら、実態としては「保守層(自民党支持層)」や「無党派層」から大量に集票している可能性があります。「保守本流に近い立憲」あるいは「自民党に不満を持つ保守票の受け皿」として機能していることが示唆されます。

2. 【競合型】 支持基盤が激しく被っている候補
所属政党は違いますが、データ上(地域ごとの得票傾向)で「支持層がほぼ同じ」になっているグループです。
MOR候補(日本保守党)KWM候補(国民民主党)

データの特徴: MOR候補(日本保守党)は、データ分析上「国民民主党」と非常に近い位置にいました。
分析: 「日本保守党」と「国民民主党」は、この地域において支持基盤がバッティング(競合)しています。どちらも「自民党ではないが、左派でもない」という層を取り合っており、MOR候補とKWM候補は同じパイを奪い合っているライバル関係にあると言えます。

ITO候補(日本維新の会) もこのグループに近く、いわゆる「第三極」の票がこの3人に分散している構図です。

3. 【直結型】 党の組織力と完全に一体化している候補
「党の勢い=候補の勢い」となっており、党の支持基盤を忠実に固めているグループです。
NKD候補(参政党)

データの特徴: 参政党との距離がほぼゼロ。
分析: 参政党の組織票や熱心な支持層が、そのままNKD候補に流れています。他党への広がりは少ない代わりに、党の支持者は逃していません。

SHM候補(公明党) & YMG候補(日本共産党)
分析: これらも組織政党らしく、党のプロット位置と候補者の位置が強くリンクしている典型的なパターンです。

MTS候補(自由民主党)
分析: 自民党の中心位置に近く、標準的な自民党候補としての得票パターンを示しています。(ただし、同じ自民党票の一部を立憲のNOD候補に食われている可能性があります)。

NAS候補(社民党) & OKS候補(れいわ)
これらは、正確な表現ではありませんが、いわゆる「左派」ブロックとして、NOD候補(立憲)とは異なる独自の位置にプロットされています。

[参考]
以下は、政党得票率とCOR(候補者超過達成比率)の関係を野田候補、川元候補、中田候補について示したものである。 立憲民主党野田氏のCORがきわめて高い地域があり、分散が大きい。参政党中田氏の政党得票率とCORとの関係はほとんど存在しない。 国民民主党川元氏のCORは、政党得票率が相対的に低い地域で1以下となっているケースが多い。
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4. 「重心の原理」あるいは遷移公式

行(地域)と列(変数)を同じ平面で近接性を調べることに問題はないか? これについては、統計学の理論上、少し慎重な解釈が必要です。 厳密な話(理論): 数学的には、行(地域)と列(政党・候補者)は「異なる空間」に存在するため、「地域Aと政党Bの間の距離」は定義されていません(計算できません)。定義されているのは「地域同士の距離」、「政党同士の距離」、「候補者同士の距離」だけです。

実用的な話(解釈): しかし、対応分析では「重心の原理」という特別なルールを使って、この異なる空間を数学的な変換を行って重ね合わせて表示しています。 これにより、「関連が強いもの同士は近くに表示される」 という視覚的な関係性が保証されます。 したがって、「近接性について調べる(近いから関係が深いと判断する)」ことに問題はありません。 それが対応分析の最大の目的だからです。この「重心の原理」を数学的に裏付けているのが「遷移公式」です。

遷移公式:相互に引っ張り合って位置が決まる
遷移公式は、以下の2つのルールがセットになっています。
ルールA: 「ある地域の位置」は、そこで票を取った候補者たちの位置の平均(重心)で決まる。
ルールB: 「ある候補者の位置」は、その人が票を取った地域たちの位置の平均(重心)で決まる。

この「卵が先か、鶏が先か」のような、お互いの位置がお互いの平均(重心)になっている関係式のことを「遷移公式」と呼びます。


★データで探る福岡の選挙動向:メモの整理

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December 04, 2025

福岡参院選データが示す静かな地殻変動(音声とグラフによる解説)


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対応分析(参院選2025年福岡、選挙区選出議員選挙)


候補者名 略号
かわもと.健一 KWM
しもの.六.太 SHM
とみなが.正博 TMN
な.す.敬.子 NAS
中.田.ゆうこ NKD
伊.藤.博.文 ITO
古.川.あおい FRK
山.口.ゆうと YMG
村.上.成.俊 MRK
松.山.まさじ MTS
森.けんたろう MOR
沖.園.リ.エ OKS
野田.くによし NOD
[1]  "門司区"   "小倉北区" "小倉南区" "若松区"   "八幡東区" "八幡西区"
[7]  "戸畑区"   "東区"     "博多区"   "中央区"   "南区"     "城南区"
[13] "早良区"   "西区"     "大牟田市" "久留米市" "直方市"   "飯塚市"
[19] "田川市"   "柳川市"   "八女市"   "筑後市"   "大川市"   "行橋市"
[25] "豊前市"   "中間市"   "小郡市"   "筑紫野市" "春日市"   "大野城市"
[31] "宗像市"   "太宰府市" "古賀市"   "福津市"   "うきは市" "宮若市"
[37] "嘉麻市"   "朝倉市"   "みやま市" "糸島市"   "那珂川市" "宇美町"  
[43] "篠栗町"   "志免町"   "須恵町"   "新宮町"   "久山町"   "粕屋町"  
[49] "芦屋町"   "水巻町"   "岡垣町"   "遠賀町"   "小竹町"   "鞍手町"  
[55] "桂川町"   "筑前町"   "東峰村"   "大刀洗町" "大木町"   "広川町"  
[61] "香春町"   "添田町"   "糸田町"   "川崎町"   "大任町"   "赤村"    
[67] "福智町"   "苅田町"   "みやこ町" "吉富町"   "上毛町"   "築上町" 

Screenshot20251203at115359_2025_20251204214701Screenshot20251203at213815_20251204214801Screenshot20251203at120754_20251204214801Screenshot20251203at121210_2025_20251204214801Screenshot20251203at181202

以下は英語音声

(01_Japan_s_New_Political_Map_Explained)

(02_japan_s_quiet_democratic_collapse_fukuoka_data)

(03_Fukuoka_Vote_Data_Reveals_Hidden_Economic_Anxiety)

(04_Sansto_s_rise_cracks_Japan_s_political_bedrock)

(05_Fukuoka_Election_DNA_Urban_Versus_Rural)


[参考]
2つのグラフ(利益剰余金と人件費、生産性と実質賃金)
対応分析(参院選2025年福岡、選挙区選出議員選挙)
対応分析:参院選(比例代表)での各党の得票を福岡県の区市別にみると何がわかるのだろうか?(政党得票率に関する分析)
福岡参院選データが示した“3つの異変”:市部も郡部も揺らす、新たな政治潮流とは

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