門司港地域複合公共施設整備事業に関する住民監査請求の監査結果(2024年12月26日付)に対して、以下の点を根拠として反論します。
1.入札における談合の疑義について
監査委員会は、入札参加事業者や業者選定委員会関係職員への個別の調査の結果、談合の事実を確認できなかったと報告しています。しかし、2023年10月以降に行われた13件の工事監理業務委託の入札に関して請求人が指摘した状況証拠、すなわち、40社もの事業者が予定価格と同一金額で入札し、かつ、全てが例外なく落札を回避しているという事実は、競争原理が正常に働いていない可能性を強く示唆しています。
• 「入札情報公開サービスシステム(北九州市)」によれば、「門司港地域複合公共施設既存構造物とりこわし工事監理業務委託」の入札において、辞退等ではなく予定価格と同額で入札した事業者が6社存在し、結果として残りの1社が、予定価格をわずかに下回る金額で落札しています。
• 鈴木満氏の著書(『新版 公共入札・契約手続きの実務:しくみの基本から談合防止策まで』学陽書房、2022年) では、「談合が存在する場合には、入札参加資格や仕様書に対する質問はあまり多くはなく、また、質問の内容にも多様性がない」と指摘されています。本件入札における質問状況は、監査結果報告書には詳細な記述がなく、検証が不十分である可能性があります。
• 同書はまた、指名競争入札において、指名された業者が入札を辞退すると、その後の指名に影響する可能性があるため、指名業者全員が入札に参加する傾向があることを指摘しています。この点は、予定価格と同額で入札し落札を回避するという行動と矛盾せず、むしろ談合の存在下では合理的な行動と言えるのではないでしょうか。
• 監査委員会は、公正取引委員会が談合を疑う事例として「落札金額の累積額や落札回数が均等になっている等、落札結果に何らかの規則性や不自然な状況がみられる」ことを挙げていますが、本件のように特定の1社に落札させるために他の事業者が予定価格で入札する行為も、同様に不自然な状況と考えられます。 個別の聞き取り調査で談合の事実が確認できなかったとしても、上記のような状況証拠は、談合が行われた可能性を否定するものではありません。監査においては、これらの状況証拠を踏まえ、より多角的な検証を行うべきだったと考えられます。
この点について付言すれば、北九州市技術管理局は、前述の「落札金額の累積額や落札回数が均等になっている等、落札結果に何らかの規則性や不自然な状況がみられる」という点を否定する証拠を提示していません。 「指名競争入札で指名した事業者が36社あったが、落札回数は各社年間0件から4件で、年度ごとにもばらつきがある」という説明は、累積落札額や累計落札数についての説明とは言えず、談合の存在を否定する証拠とはなり得ません。
2.文化財保護に関する手続きの違法性・不当性について
監査委員会は、文化財保護法及び北九州市の定める諸規則に基づき事務が執行されており、法的な手続きに瑕疵や違法性はないと判断しています。しかし、以下の点からこの判断には疑問が残ります。
• 文化財保護審議会への諮問の義務: 北九州市文化財保護条例第33条第2項 は、市指定史跡等を指定する際に文化財保護審議会への諮問を義務付けていますが、重要な文化財である初代門司港駅遺構の取り壊しという決定についても、文化財保護の観点から審議会に諮問するべきだったと考えられます。市長部局は、文化財に指定・認定するものではないから諮問は不要と説明していますが、指定の有無にかかわらず、文化財の価値や保存に関する専門的な意見を聴取することは、文化財保護法の趣旨(第3条)に沿った適切な対応と言えるのではないでしょうか。
• 教育委員会の権限放棄: 文化財保護法第190条 は、地方文化財保護審議会を教育委員会に置くことができるとしており、その役割は教育委員会の諮問に応じて文化財の保存及び活用に関する重要事項について調査審議し、建議することです。文化財保護審議会への諮問は教育委員会の権限であるにもかかわらず、市長部局の判断をそのまま受け入れ、諮問を行わなかったとすれば、教育委員会は文化財保護上の重要な権限を放棄したと批判されてもやむを得ないと考えられます。
• 「文化財保護の重要なもの」の解釈: 北九州市教育委員会事務専決規程において、文化財の調査、指定及び管理に係る事業は市民文化スポーツ局長等の専決事項とされていますが、「重要なものを除く」という限定が付いています。初代門司港駅遺構は、専門家がその文化的価値を認めている重要な遺構であり、その取り壊し決定は「重要なもの」に該当し、教育委員会での審議を経るべきだったと考えられます。
• 文化庁の見解: 村上さとこ議員の文化庁への問い合わせによれば、文化庁は「文化財保護に係る重要事項」は本来の職務権限者である教育委員会に残る一定の権限(文化財の指定等)であり、「重要事項に係る業務については、地方自治法第180条の7に基づく事務委任・補助執行を行うことは想定しておりません」との見解を示しています。北九州市が補助執行によって市長部局に文化財保護に関する事務を行わせている現状は、文化庁の見解と矛盾する可能性があります。以上の点から、監査結果が文化財保護に関する手続きの適法性を認めていることは、文化財保護法や北九州市の規則の解釈、及び教育委員会の役割と責任の観点から、再検討されるべきであると考えます。